ねとねとねとはのねとねと日記

現実と想像とマンガ

漫トロピー⑨

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~これまでのあらすじ~

私の名はねとは。漫画を読むことに人生の意義を見出す種類の人間である。

ときは大学の3回生時。周りにはあまりその種の人間がおらず、そういう意味においては孤独を感じていた。

同好の士と知り合いたければ、大学にはサークルという素晴らしく便利なコミュニティがある。

そしてどこの大学でもそうであるように、京大にも漫研は存在していた。

しかし漫研は漫画を”描く”人たちが集まるサークル。私には適さない。

“読む”専門のサークルが無いものかと探し回ったが、結局京大には存在していなかった。

そんな折、二つの偶然が重なった。

一つは、高校の同窓生と「再会」したこと。彼はある意味において特殊な人間であった。

もう一つは、その年初めて訪れた年末のコミケで、東大の『TMR』という漫画読みサークルを「発見」したこと。

この二つの出来事と私のちょっとした思い付きがスパークした。結果、先ずは高校時代の友人に呼びかけ、自らサークルを立ち上げることと相成った。

サークルの名は『京大漫トロピー』。

これまで、その結成に至るまでの経緯を書いてきた。

以下からは、そのサークルの立ち上がりの様相、いわば<始動篇>なるものを記述していきたいと思う。

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3月5日。漫トロピー第二回の会合は、京大ルネではなく、丸太町ガストで開かれた。

皆の時間の都合で、深夜のファミレスにせざるを得なかったのだ。

当然皆ヒマな大学生なのであるが、特に忙しくもないのに結局、深夜に集合となってしまう。それがヒマな大学生の残念な特徴なのだ。

新入生もまだおらず、皆顔見知りの我々であったが、既に漫トロというサークルが興っていたからには、サークル活動として、漫画を持ち寄って漫談を行うというもの。

ガストのテーブルの上に、所狭しと漫画を積む我々一同。

その中には堂々と、快楽天や成人漫画の姿もあった(※事実として記録ノートに残っている)。

周囲を気にしないという善かれ悪しかれな漫トロの習癖が、当初から存在していたわけである。

この行動がキモいかキモくないかは、まったく、他者の判断に委ねられるし、そもそもキモいかどうかなど、問題にする必要は無いのだ。それがヒマな大学生の残念な特徴なのだ。

 

さしあたり我々は、最近読んだ漫画や、各自オススメの漫画の話などに花を咲かせた。

いま思えば、まだモヤモヤで具象化していなかったサークルの空気感を、手探りで形作ろうとしていたのだろう。けれど、それは無意識下で行われたことだった。我々はただただ、好きなことをしていただけであり、自然と収まるところには収まり、形成されるものは勝手に形成されるのだ。

そもそもサークルとして、漫画読みが「集まる」こと自体に既に意義があるのだ。

意識して同好の士として集まろうとしない限り、基本的には漫画読みは孤独な存在なのだ。

もちろん、これは漫画に限らず、様々な趣味嗜好に敷衍して言えることなのだろう。それが、コアであればあるほど。

そういうわけで、我々は顔を合わせて適当に漫画の話をする、それだけで楽しかったし、結果的に自然とサークルの雰囲気は醸成されていった気がする。

 

そんなふうに新歓の前に、サークルの具体的な活動あるいは雰囲気を形作るというのも、我々にとって大事な作業だったが、もちろん、迫りつつある4月の新歓にも目を向けなければならない時期でもあった。

さしあたって新歓で大事なことは何か? それはビラ撒きだろうと単純に考えた我々は、早速ビラを作ることにした。

 

さて、この段階でサークルのメンバーは5人だった。

一体新入生はどれだけ入ってくれるのか。そもそも一人でも入ってくれるのか。

最悪の場合、始動と同時に瓦解するのでは無いか。

いやいや、一人も入らなければ、我々だけで細々と活動していくだけのこと……。

当時は漠然とそんな風に考えていたと思う。

何はともあれ、このビラが今後を占う重要な役割を果たす!

 

しかし、入念に計算してそのビラを作成したのかというと、適当な我々がそんな緻密な行いをするわけがなく、もちろん、その場のノリで「これええやん」といった感じで、パパッと作った。往々にしてこの世の中、そういった直感が意外と成功するものだ。

どんなビラかというと、たまたまRex(※今後人名はハンドルネームを使用する)が持ち込んでいた『未来日記』のとあるコマを利用したものであった。

著作権的に微妙かもしれないので、ここではあまり詳細は語らないが、『未来日記』のヤンデレヒロインであるところの由乃ちゃんが、「殺すわよ!?」というセリフがあるコマを利用した。そこにちょいと我々が「え? 漫画読んでない?」と頭に付けてやれば、ほら、立派なビラの完成である。しかし、漫画を読んでなければ殺されるなぞ、まったく、理不尽な話この上ない。

その絵に付属して、我々メンバーのステータスとして、好きな漫画や漫画家、雑誌などを、ビラの下半分に羅列していった。会員A:アフタヌーン冬目景敷居の住人……会員B:ヤングマガジン華倫変……云々、のような感じである。

このビラは、ガストを後にしたあと、皆でRexの家に赴き、徹夜で作ったのであった。

 

《続く》

くそまんがの唄

きみはこんなこんな

くそまんがを描いてはいけないよ

 

ぼくはしってる

きみがこんなこんなくそまんがを

描きたくて描いてるのではないってことを

 

でもけっかてきにくそまんがに

なってしまっているということを

ぼくはざんねんに思わずにはいられないんだよ

 

きみはどうしてどうして

こんな雑なコマ割りをしているの

 

しっているだろうきみも

コマの形や大きさ

すべてに意味があるってことを

 

しらないはずがないだろうきみも

まんがは右から左に読むという当たり前のほうそくも

 

よのせんじんたちが

こぞってつむぎあげてきた

コマ割りのぶんかというものを

しらないはずがないだろうきみも

 

きみはどうしてどうして

マーケティングをわるいいみで意識するあまり

きぞんの作品のはりぼてをつくってしまっているの

 

しっているだろうきみも

ほんとうは自分のせかいを作りたかったんだって

 

しらないはずがないだろうきみも

あのときの夢を

いつだったかの憧れを

 

お金についていくというよりは

お金がついてくると考えるのがクリエイターだということを

しらないはずがないだろうきみも

 

だーめだよこんなくそまんが描いてちゃあ

だーめだよこんなくそまんが描いてちゃあ

 

いけないよぼくは許さないよ

知ってるんだぼくは

きみはほんとうはもっともっと

おもしろいまんがが描けるんだってことを

 

みせてくれよぼくに

くそまんがじゃない

きみの本当のまんがを

 

みたいんだぼくは

くそまんがじゃない

きみの夢と憧れのまんがを

 

ああくそまんが

ああくそまんが

 

くそったれなよのなかに

せめてまんがだけでも

くそったれであるなよ

 

ああまんがまんが

ああまんがまんが……

『ミザントロープな彼女』連載終了の蓋然性について

本日は3月7日。

good! アフタヌーンの発売日であるな?

まずそこから始めよう。その通り、発売日なことは確実だ。

そして、そのgood! アフタヌーンに『ミザントロープな彼女』は掲載されているな?

その通り、掲載されていることは確実だ。

お前はその掲載話を読んだな?

よろしい、読んだとしよう。

 

さて、その最終ページには何と書いてあったか、読むことができたか?

まずお前は「文字を読むことができる人間である」と仮定しよう。

その仮定に基づき、その字を解読してみることにしよう。

 

ミザントロープな彼女/おわり

ご愛読ありがとうございました!

厘の先生の次回作にご期待ください。

 

と書いてあるように見える。

ここで様々な可能性が発生するのがお前にも分かるはずだ。

 

① お前は本当は字が読めない

→これほどユニークでハイセンスなオモシロ漫画であるところの『ミザントロープな彼女』が突然連載終了するのは少々考えにくい。おっと、言い過ぎたな。突然連載終了するのは全く考えられない。よって、お前は文字の認識に過ちが生じている。

→だがこれは矛盾だ。文字が読めなければ、そもそもオモシロ漫画じたいを読むことができないではないか。

→やむなくこの可能性は棄却することにする。

 

②お前は字が読むことができるが、今回に限り、脳内で誤った処理が為された

→本当は全く違う文言が書かれているのに、白昼夢にお前は侵されている。やれやれ、このブラックな社会でお前は疲れすぎているらしい。これほどユニークかつハイセンスかつオモシロ漫画であるところの『ミザントロープな彼女』が突然連載するのは少々考えづらい。もとい。全く考えられない。よってお前は疲れすぎている。しっかり睡眠を摂った方が良い。母なる食事も摂れ。牛乳も飲め。

→この可能性は棄却できない。次号のgood! アフタヌーンにも『ミザントロープな彼女』は掲載されているかもしれない。

 

③お前は脳内でも正しい処理をした。ただし、違う世界線に迷いこんでいる

→元いた世界では連載が続いているのに、お前がブラックな社会で少々疲れすぎたせいで、闇に飲み込まれ、パラレルワールドに迷い込み、まるで悪夢のように『ミザントロープな彼女』が連載終了してしまった事実を目撃してしまっている。

→この場合は、元いた世界に何としても戻らなければならない。この世界においては連載終了してしまったことは事実だ。その現実を重く受け止めた上で、帰還することを目指した方が良い。私は喜んで協力する。

 

④お前は正しい処理をしているし、世界も同じ姿を保ち続けている。しかし、何らかの手違いで、文字が改変されてしまっている。

→編集者か印刷業者が間違えたか、はたまた作者自身が書き間違えたか。どの工程で過ちが生じたかは判然としないが、ともかく、何か手違いがおこっているのだ。

→この可能性は棄却できない。次号を待とう。これ以上は何も言えない。

 

⑤何も間違っていない。文字も正しい。

→オアアアアアアアア

 

オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

オッ

 

オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

オッオッ

 

オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

⑥我々は幸せな人生を送っている

→このブラックな現代社会において、ココロのオアシスであるところの超絶オモシロ漫画であるところの『ミザントロープな彼女』を毎月読めるのは、本当に幸せなことだなぁ。幸せだ。幸せだなぁ。ありがとう、ありがとう!

 

オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

⑦我々は前向きに生きねばならない。

→このブラックな現代社会において、オアシスは蜃気楼だ。漫画を読めなくても生きていかねばならない。それが人生だ。人間だ。社会だ。生物だ。地球だ。宇宙だ。全てはあるべきところにあり、収まるべきところに収まる。

 

⑧ピーちゃん、今日も元気だね!

→アヒルのピーちゃんは今日も元気! ピーピーうるさいゾ、まったくぅ。しょうがないやつだなァ。よしよし、ナデナデしてあげようネ。

 

オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

⑨最終巻で書き下ろしがあるらしい

広告のページにそう書いてある。うん。あと二ヶ月先に単行本が発売されるらしいぜ。二ヶ月も期間があれば、きっとすごい書き下ろしだよ。違いねぇ。

 

オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

⑩お前はそれでも生きていかねばならない

→人生は過酷だ。イニシエーションの連続だ。

→生きねば。

 

⑪オアアアアアアアアアアアオアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

現実的な日記7

チャイムの音が鳴った。

ドアを開けると、ピーちゃんが立っていた。

「ピー、ピィピィ、ピピピッ」

 

チャイムの音が鳴った。

ドアを開けると、ピュイちゃんが立っていた。

「ピュイ? ピュイピュイ……ピュピュイ!」

 

チャイムの音が鳴った。

ドアを開けると、ピッピちゃんが立っていた。

「ピッピピッピピッピ!」

 

チャイムの音が鳴った。

ドアを開けると、白くて首が長く、クチバシが黄色い鳥が立っていた。

アフラックのCMでも見たことがあるような鳥だ。

「私はアヒルです」とその鳥は言った。

 

しかし、私はその鳥のことが全く信用できなかった。

何しろ、うちにいる3羽のアヒルとは形状が全く異なっている。

「嘘をつけ!」と私は叫んだ。

「信用してください」とその鳥は言った。「私はアヒルの理念型を体現しています。私はアヒルがアヒルであるための、あらゆる資質を備えているのです」

私は反論した。「しかし、うちにいるアヒルとは、姿形が全く異なるではないか」

「彼らは彼らでうまくやっているのでしょう。けれども」

「うちのアヒルを侮辱するか!」

私は手に持っていたアヒル・クビキリ・ナイフを振り上げ、そのアヒルと名乗る鳥の首を斜めに切断した。ガァーッという断末魔が、その生首から聞こえてきた。血も流れることなく、首と胴体はゆるやかに消失していった。

 

チャイムはもう鳴らなかった。

私はベッドへと引き上げ、3羽のアヒルと共に眠りについた。

何となく、これで平和になる、と思った。それは確信に限りなく近かった。

しかしアヒル・クビキリ・ナイフと、あの鳥との間を結ぶ、矛盾線が、確信を少しだけ遠ざけていた。

しかしこの世界に絶対は無い。私はそのことを、とことん理解しなければならない。それがイニシエーションであり、きっと今の私にとって必要なことなのだろうと思った。

ねとはとは何なのか④

ねとはとは何なのか① - ねとねとねとはのねとねと日記

ねとはとは何なのか② - ねとねとねとはのねとねと日記

ねとはとは何なのか③ - ねとねとねとはのねとねと日記

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私がモンキー伯爵からの”呼び出し”を受けたのは、あの恐怖の出来事から三日後のことだった。

下腹部の辺りがチクチクとして、最初はただの腹痛と思おうと努めたが、あまりにも痛みと痛みの間隔が人工的・意図的に感じられたため、伯爵の腕毛が遠隔操作されているのだと解釈せざるをえなかった。どうも例の剛毛が腸の辺りに食い込んでいるらしい。引っ張られるような痛みだった。

先日の去り際には、自ら会いに来るとか言っていたくせに、話が違うではないかと腹が立ったが、コロコロと言うことを変えるのが、かの人物の悪癖だったと思い出し、ため息をついてあきらめた。

 

それでは、一体どこに向かえば良いのかと思ったが、どうも痛みには”方向”があるらしいことがわかった。要するに、引っ張られる方向が一定なのだ。前を向けば前方に引っ張られ、180度体の向きを変えれば、後方に引っ張られる。伯爵と腕毛の間に、強力な引力が働いていると考えるのが分かりやすい。

痛みも少しずつではあるが強くなってきたので、急ぎ支度をし、痛みの指す場所へと足を向けた。三角測量の要領で、だいたいの距離は見当が付き、歩ける距離だと判断した。しかし、まったく、こんなわけのわからないことで三角測量の知識を使いたく無かった。

 

2kmほど歩いて到着した目的地は、廃工場のようだった。試しに周囲を廻ってみたが、チクチクの方向は明らかにこの中が正解であると告げていた。中途半端なフェンスで囲ってあり、立ち入り禁止な雰囲気を醸し出しているくせに、簡単に入り込める、雑な作りになっていた。不良の溜まり場とは、こういうところにできるんじゃなかろうかと思った。

入りやすそうな場所を見つけてフェンスを乗り越え、眼前にそびえる錆だらけの建物を見渡した。一般的な学校の体育館と同じくらいの大きさのように思えた。

やはり錆だらけで汚らしい扉が中途半端に開け放たれており、私はその隙間からそっと中を覗き込んだ。すると目の前に、かのモンキー伯爵の顔がヌッと現れたので、心臓が飛び出そうになった。同時にものすごい嫌悪感と吐き気が込み上げてきた。伯爵の口がもぐもぐと動いているので、どうも例の猿飴をほおばっているらしい。少し遅れて、強烈な腐臭が意識の俎上に上がってきた。吐き気の原因はこれらしい。だが、嫌悪感の原因は、伯爵の存在そのものだろう。

 

伯爵は開口一番「タワケ!」と唾を飛ばしながら叫んだ。私は唾を避けれず、顔面いっぱいに臭い汚水の雫を垂らすはめになった。なぜ私はこんな目に遭わなければならないのか、驚きと怒りと悲しみと怖れの感情が押し寄せてきたが、それを何とか抑え、冷静にこの現実を乗り越えようと努めた。

「伯爵、お呼びでしょうか。そして、なぜタワケなのでしょうか」

「お前が来るのが遅すぎるからだ。待ちくたびれた。もう少しで、私の腕毛でお前の腸を突き破るところだった」

伯爵の言葉を信じるならば、どうやら私の腹の中にあるのは、受信機の役目どころか、遠隔操作型の爆弾に近い代物でもあるらしい。改めて背筋が冷たくなるのを感じた。

目の前には以前と同じ、ゆったりとした格好、かつ腕毛全開の伯爵が立っていたが、そのもう少し後ろに、数人の男女が向かい合って立っているのが見えた。男女混成の4人組が、二組だろうか。緊張感が漂っている。彼ら彼女らも、私と同じように伯爵に呼び出されたのだろうか。

 

伯爵は、ものすごい勢いで笑顔を形作った。狂気と紙一重の笑顔だった。

「お前には審判を務めてもらう」

何の前置きも無しに、伯爵は唐突に言った。

「審判?」

「楽しい楽しい、異種サークル対戦の審判だ。ここには、もはや楽しさしか存在しない」

どこからどうみても、楽しげな空気のかけらも見当たらなかった。後ろにいる8人の男女が一様に示している表情は、まるで死の覚悟を決めているようにも見えた。

 

《続く》