ねとはとは何なのか②
スターバックスまでの道中、モンキー・クリストファー・ジョンソン伯爵は、自身の仕事の内容について語ってくれた。
「四肢を切り離すところから始めるんですよ」
表情一つ変えずに、伯爵は話し始めた。
「もちろん、生きた猿です。捕獲されてからすぐにキッチンまで運び込まれてくるんですよ。我々の組織ではいくつかの部署に分かれていて、猿を山まで捕獲しに行く専門の隊も用意されています。まぁ、そこは若手が多いですね。私も昔はそこに所属していました。結構、ハードな仕事でしたね」
きっとそうなんでしょうね、と私は相槌を打った。
「四本の手足はキッチンに残して、胴体部分はまた別の部署に運ばれていきます。その時点ではまだ生きているので、普通だったら、キーキーうるさいですよね。だから、まさしく”猿ぐつわ”を噛ませるんですよ。ははは」
私は湧き出る不快感を、できる限り露わにしないように努め、愛想笑いを浮かべ、ははは、と返した。
「残った腕と足を、切り刻んでいくのが私の仕事です。これぞまさに”腕の見せ所”ってね。ははは」
ははは、と私も返した。
「といっても、実際、四肢を輪切りにしていくだけなんですがね。しかし断面を見て考察するのがまた面白いんですよ。樹木の切り株と同じで、断面にはその猿の人生が詰まっています。骨を中心として、周りの組織や筋肉、神経や血管、それらから色々な情報が得られます。どんな生き様だったのか。想像が掻き立てられます。ただ、別にこれが仕事ってわけじゃありません。私の個人的な趣味です。だってそれくらいしか、この仕事の楽しみが無いんですから。そうでしょう?」
そりゃそうでしょうね、と、私はもっともらしく頷き返した。
「話を戻しますと、必要なのは腕や脚の部分だけで、つまり、実は先端である手は余るんですよね。一応それは廃棄する決まりになっています。ですが……」
ここで伯爵は初めて表情を変え、気味の悪い笑みを浮かべた。私はそれを見てなぜか、カマキリの雌が雄を捕食するイメージが脳裏をよぎった。
「こっそりね、その手を自宅に持って帰って、私用に使っているんです。まな板の上で、ザクッと五本の指を同時に切断する時の快感といったら、とても言葉では伝えきれません。金太郎アメみたいに輪切りにしていった後、食用に保存します。そうだ、今も何個か財布の中に入れているんです。おひとついかがですか?」
私は慎重に、そして丁重に断った。伯爵は残念そうに言った。
「これまでも何人かに勧めたことがあるのですが、皆さん、お断りになられました。しかし、この猿の飴は、どんな和菓子よりも美味しいのですよ。」
伯爵は財布から一つ、茶色い物体を取り出すと、口の中に放り込んだ。
「真ん中が骨になっていて、周りを様々な種類の組織が包んでいます。口の中で転がしていると、実に多彩な味がして、とても幸せな気分になるのですよ。時間はかかりますが、最終的には芯である骨だけが残って、そこだけは噛み砕きます。この歯ごたえといったら……」
ここで伯爵は再び奇妙な笑みを浮かべた。
「抜群です!」
伯爵の口からは腐臭が漂い、私は全身の毛が逆立つのを感じた。このまま、この人間と一緒にいて良いのか、猛烈な不安感に包まれたが、完全に逃げるタイミングを失っていた。ちょうどスターバックスの店の前に着いたところだった。
「ちなみにこの飴玉は、”モンキ・クリスト伯の猿アメ”と仲間内では呼ばれています。ははは。それでは中に入りましょうか」
私は伯爵と共に店内に入った。この時の私は、吐き気をこらえるのに精一杯だった。