漫トロピー⑦
東大の漫画読みサークル「TMR」。
彼ら彼女らの冊子を読み終えたとき、様々な感情が湧いた。
「すごい」「羨ましい」「悔しい」。そして「ナンデ?」。
僕は精神的ジジイへとメタ擬人化し、エアお孫に脳内で話しかけられた。
「ねぇおジイちゃん、東大にはこんな素敵な漫画読みサークルがあるというのに、どうして京大には無いの? やっぱり、京大は東大に劣っているの?」
「……。」
「やっぱり京大の人たちは、一人で漫画を読むしかないの?」
「……。」
ジジイは何も答えられなかった。
もやもやとしたまま年は明け、短い冬休みをだらだら過ごしたり、試験勉強に明け暮れたり、飲み会に行ってホンワホンワしたりして、日々を過ごした。
しかしその間、僕の胸の中には、それまでの数ヶ月間で得ていた体験が、徐々に熟成し、発酵され、渦巻き、何らかの形に具象化しつつあるようだった。
そして、その考えが結晶化して弾けたのが、あの時、寒い夜の山科駅だった。
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「どうして東大には、漫画読みのサークルがあるというのに、京大には無いのか?」
「東大のサークルは、既に10年くらいの歴史はあるらしい。京大ではその間、どうして誰も作ろうとしなかったのか?」
「漫画を読む人たちだけで集まろうという発想は、そんなにも考え付きづらいものなのだろうか?」
「考え付いたとしても、やはり行動には移しづらいものなのだろうか?」
「行動に……」
「……」
「誰もやらないなら、自分がやればいいのではないか……?」
「しかし1人では……」
「……いや……待てよ……」
この時、脳内に浮かんだのは、Mの存在だった。
それまでの燻りが、この時に炎を上げた、と言えば大げさな表現になるが。
本当にその時は、ちょっとした思いつきで、学祭の時に聞いていたMの連絡先へ向けて、メールを打っていた。
細かい文面までは記憶に残っていないが、大意は覚えている。
こんな感じだ。
「漫画読むサークル作ろうと思うねんけど、一緒にやらへん?」
本当にこれくらいの文面だったと思う。一行? 二行?
驚いたことに、返事は数分で返ってきた。
「ええで!」
今考えても、このレスポンスは彼ならではだったのだろう。
ほとんど一度しか会話したことが無い人間から、夜中に突然よくわからない提案を受けたのにも関わらず、一瞬で快諾してくれたのだ。しかも全くもって、適当な返事では無かったことも、後にすぐにわかった。
すぐに予定を合わせて、ひとまず会う約束を取り付けた。
場所は「ルネ」。京大生の最大公約数的飯食い場。パフェも販売していることにより、オシャレのメッキを施す、あざとい空間だ。かといって別にオシャレな女子大生がパフェを食いに集まるという程でも無い。たいていの場合は、小汚い男性がむしゃぶりつく。僕もよく食べたものだ。ついでに言うと、後にサークルに入部した、とある後輩の必殺口説き文句は「俺と一緒にルネにパフェーを食いに行こうぜ」であったという。どうでもいい話だが。
そして某日、ルネにて、彼とぎこちなく再会した。