ねとねとねとはのねとねと日記

現実と想像とマンガ

松本剛『ロッタレイン』のすべて➁

※ 以降の記事は、私なりの精読を文章化するものであり、既読者向けです。第1~4話まではwebで試し読みhttp://hi-bana.com/works018.htmlできるので、未読者は最低限それは読みましょう。そしてその後は買いましょう。

 

★第1話

そもそもにして、最初の見開きのカットが美しい。どう表現したら良いのか……全てを投げ打ったかのような二人の暗き情愛を感じさせる。この絵だけで、クる人には、クる。作品の方向性を示す、重要なカットだが、この時点で既に私は虜となった。

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物語は、入院中の病室のカットから始まり、バス事故の経緯が説明され、全てを失った主人公が描写される。その心象風景は、現実の風景と重ね合わされる。

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この場面などは一(はじめ)のセリフの介入により、わかりやすいが、全編を通してこの作品、登場人物の心象を風景に投影したようなカットが度々出てくる。読者はそれを読解し、咀嚼し、じっくりと味わう。本作の醍醐味の一つである。

そして失意の一の元に突如、少女・初穂が訪れる。

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画像左のカットは、ラストシーンとの対比を為す。画像右は、少女の美少女性を示すカット。恐らくは唇に力点を置いて作画されているはずである。唇は彼女の美しさを表す象徴として、その後も機能する。

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「来ないで」と意味深な発言を残して初穂は立ち去る。その翌日、彼女と共に、自分と母親を捨てた父親が現れる。「はじめまして」と告げる初穂。父親の前では、無邪気な振る舞いを見せる彼女だが、一に対しては静かな目配せを送る。

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個人的には、画像右に示した"目配せ"が、第一話最大の見所であった。「わかっているでしょうね」といわんばかりの冷たい視線。しかしそれだけに、"素"の自分。画像左の"演技"との対比。後に判明する、少女の孤独性の暗示。そして無言とはいえ、二人の最初のコミュニケーションとも言える。いくつかの想いがこの静かな二コマに含意されている。作者の画力とネーム力の一端である。

その後、一が父親から、一緒に暮らそうと告げられるところで第一話は終わる。