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現実と想像とマンガ

松本剛『ロッタレイン』のすべて①

10月12日。どうしようもないくらいに最高の漫画の完結巻が発売された。きっとしばらくの間、この漫画のすべてが頭から離れないと思う。

松本剛『ロッタレイン』。単行本が出るのを、この3年間、心より待ち続けた。『IKKI』2014年6月号連載開始。同誌の休刊により『ヒバナ』への移籍を経て、2017年6月号で完結。そしてこの8,9,10月の3ヶ月連続で単行本が刊行された。

“静”と”動”の巧みな描写で感情に多大なる揺さぶりをかけてくる、恐ろしいほどに叙情的な、圧倒的な漫画表現。魅力も欠点もある、登場人物の子供や大人たち。新潟の閉塞感あふれる田舎町で、彼ら彼女らの思惑が交錯・錯綜、やがては衝突し、一つの結末へと収束してゆく。全3巻。序・破・急の構成。

……玉井一(はじめ)、30歳。東京でバスの運転手を務めていたが、母親を亡くした直後に、恋人が上司と浮気をしていたことを知り、精神を崩し、仕事中に事故を起こす。家族も恋人も仕事も失った一の元に、かつて自分と母を捨てた父親が現れ、一緒に暮らそうと告げる。父親には、再婚した女性との間の息子、そして、女性の連れ子である娘がいた。13歳の美しい少女、初穂。血の繋がっていない妹。一は新潟の父の元へと赴き、新しい家族と、新しい生活を始めるが……。

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雑誌連載一話の煽り文句は、「僕たちは、出会ってしまった」。30歳の全てを失った男と、13歳の孤独な少女との関係が描かれる。少女は美しくあるが、境遇ゆえに、どこか汚れた意識を拭えない。それゆえに、脆さと力強さを併せ持った、儚げで危うい魅力を身にまとっている。男はそれに惹きつけられ、庇護欲とは別の、特殊な欲求を抱いていき、やがては……。

ロッタレインの意味は「土砂降りの雨」。暗く官能的で、ヒリつくような感情を読む者に喚起させる。松本剛の漫画は、読者から何かを奪い去り、別の何かで埋めてゆく。氏の代表作は2003年『甘い水』。寡作の漫画家で、オリジナルの長編は、本作が『甘い水』以来となる。『甘い水』も傑作と言えたが、本作『ロッタレイン』は、さらにその先を行った。

これからこのブログで本作『ロッタレイン』の読解を試みたいと思う。

 

ロッタレイン(1) (ビッグコミックス)