漫トロピー⑫
2008年4月11日。
前週に来てくれた2名も、続けて来訪してくれていた。
ちなみに男性の”さなさぎ”の方は、どうせ新歓中は奢ってもらえるのだということで、毎週毎週、食堂でもっとも高いランクのメニューを頼み続けていた。さらに、他の新入生に対して、「おう、君、新入生?このサークルはネ……」という調子で話しかけ、上回生だと勘違いさせるという、ある種の強さを発揮していた。豪胆な男である。この肝の太さは、以来、サークルとしての、ある意味一つの柱として機能していった……気がするが、それはまた別の話である。
女性の”ガチムチ山”の方は、マイペースに安定して居続けてくれた。こちらもある意味貴重な柱として機能していった……気がするが、それもまた別の話である。
さて、新歓する側の我々同級生・初期メンバーは、5名。前週は新入生2名だったので、ゆっくりと対応できていた。
しかし、なんと、この日は新入生が、前出の2人を合わせて、9名も来てくれた。ふつうのサークルの新歓としては通常人数なのかもしれないが、我々にとっては驚くべきことであった。嬉しい悲鳴を上げた。いよいよもって、サークルとして形を保っていくこと、あるいは保っていかなければならないこと、が現実味を帯びてきた。彼らは入学直後の貴重な一日を、我々のサークルのために充ててくれているのだ。彼らを落胆させないよう、楽しんでもらえるようにする、責任というものがある。
(ところで上記「新入生」という言葉で一括したが、2回生以上の方も新歓に複数名、来ていただいていたことを付け加えておく)
とはいえ、やることは決まっている。漫画の話をするのだ。それだけだ。
そして、食堂ルネの一角を陣取っていた我々は、我々オススメ、かつ、アッピールポイントになるような、色彩の強い漫画を持ち込み、狭いテーブルの上に積み上げていた。それらの漫画を新入生たちに勧めて、読んでいただいたりもした。
ところで、後に、我々サークルの重要用語として、「漫力」という言葉が生まれることになる。概念としては、漫画読み力といえばいいのか、要するに漫画の詳しさを示す指標ともいえる、まぁ曖昧な言葉でもあるのだが、しかし一言で言い表せる便利な言葉でもあった。使いかたは、「俺、漫力たけぇから、この漫画を理解できる」「僕、漫力低いので、もっと沢山漫画を読むッス」みたいな感じである(本当にこんな言い方をしていたかは別として)。
そして、今考えてみれば、我々は、我々の漫力を侮られないように、持ち込んだ漫画でマウンティングをかけていた、という面は否定できないかもしれない。新入生に、「なんだ、漫画読みサークルとか謳っているけど、大したことねぇな、こんなんなら一人で家で漫画読むワ」と思われたら負けである。我々は勝ちにいった……(傲慢な表現だ)。
それと、もうひとつ、我々はある意味においてセコい戦略をとった。漫画を貸すのである。善意プラス、セコみである。なぜかというと、お察しのとおり、”返しに来てくれるから”である。強制リピーター機能である。自然にサークルに馴染んでもらうという、寸法だ。
こういった戦略(?)、あるいは我々の魅力のアピール(??)が、功を奏したのか、少なくない割合の方々が入会してくれることになった。結論からいうと、この日に来てくれた新入生の、半数以上が、最後まで(卒業まで)サークルに在籍してくれることになる。
さらにちなみに、記録が残っているので、この日に積み上げられていた漫画を、恥ずかしながらご紹介することにしよう……(今見ると本当に結構恥ずかしい。当時は2008年だったということも含めてご覧ください)。
ヨルムンガンド・放浪息子・残暑・イエスタデイをうたって・青い花・Dears・おやすみプンプン・ナショナルキッド・DDT・ゆびさきミルクティー・もっけ・ユリア100式・幻影博覧会・少年少女・BLACK BRAIN・ポーの一族・トーマの心臓・おつきさまのかえりみち・かすとろ式
以上。
さて、次週以降さらに、カオス、あるいはエントロピーが増していくことになる。
《続く》