ねとねとねとはのねとねと日記

現実と想像とマンガ

漫画ゾンビ①

漫画ゾンビの大群がショッピングモールに押し寄せてくる。

上から眺めると、その群れは、皮膚を剥いだ下にある、トウモロコシのような皮下脂肪の塊のようにも見えた。真っ黄色に染まった漫画ゾンビたちは、まだ足らない、まだ足らない、と口々に唱え続けている。ただし協調性が無く、皆ばらばらに喋っているので、それは不快を呼び覚ます不協和音でしかない。

強力なゾンビパワーの結集により、モールの入り口に設置してある防御カーテンにもヒビが入り始めた。ここのバリケードが破られるのも時間の問題だろう。

 

漫画ゾンビたちは全国の書店の漫画コーナーをあらかた食いつぶしてしまった、という情報を、先ほどラジオで聞いた。そして、第七感と呼ばれる、人間を超えて得られた漫画ゾンビ特有の感覚により、このショッピングモールにも漫画が備蓄されていることに気付いたらしい。あまり詳しくは知らないが、どうやら漫画から漂うフェロモンのようなものを、ゾンビ固有の受容体によってキャッチしているということだ。

 

数百年前に突然変異として出現した、感動をむさぼらなければ生きていけない人間の一個体が全ての大元だった。当時は感動依存症という名前で、社会的には病気として認知されていた。しかし、その人間は、感動を味わえば味わうほど、常人の数百倍のカタルシスホルモンが全身を満たし、肉体的にも精神的にも大幅に強化され、さらには繁殖力も増大していったという。これは病気ではなく進化だという通説が一般化するのには、それから数十年を要した。しかし、その問題点に気づかれた時には既に遅かった。遺伝性をもつ、この特徴は、子孫にもそのまま受け継がれ、その恐ろしい繁殖力のまま、数を増大していっていた。遺伝が進めば進むほど、その強化力はさらに増大し、ある時に超えるべきでは無い一線を超えてしまった。それが漫画ゾンビだった。

 

《続く》