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ねとねとねとはのねとねと日記

現実と想像とマンガ

厘のミキ『ミザントロープな彼女』:レビュー (未読者向け ネタバレ無しver.)

異色ラブコメの傑作

オススメ ★★★★★

 

<本稿は未読者向けです。2巻までの既読者はこちらのレビューをどうぞ  厘のミキ『ミザントロープな彼女』:詳細レビュー <第10話を中心に> (既読者向け ネタバレ有りver.) - ねとねとねとはのねとねと日記

 

傑作である。

昨年、ダントツで面白かったので、ランキング1位とさせて頂いた。しかも、連載でも追っているが、現在進行形でなお面白い。我々(漫画トロピーク)の作成するランキングにおいては、二年連続して同じ漫画をランクインさせることは、なるべく避けるようにする、という暗黙の了解があるのだが、このままだと僕はその禁忌を犯してしまいそうなくらい(つまり今年もランキングに入れてしまいそうなくらい)、面白い。

 

ジャンルは「ラブコメ」。

皆さまにおいては、恐らくこれまでの人生で、数多のラブコメ漫画を読んできたことと思う。ラブコメといったら、大体こういうもの、というステレオタイプみたいなものが各人に形成されていることと拝察する。僕もそうである。しかしこの漫画はそのようなステレオタイプとは一線を画す。ものすごく”クセが強い”。作者である「厘のミキ」(旧:凛野ミキ)は、クセの強い漫画しか描かない。

だから、合わない人にはたぶん、全然合わない。誰に感情移入したら良いのか分からなくなると思う。しかし、合う人には恐らく、抜群に合う。そしてその合う人に、このマンガを、手にとって欲しいのだ。

 

簡単な筋書きはこうである。

人嫌い(ミザントロープ)の女子高校生「末代花実」は、できるだけ他人との関わりを避けて過ごしていた。他人との重たい関係を避け、かといって目立つほどに孤独となるのも避け、ほどほどに、目立たず、空気のような存在を目指していた。そんな花実の目の前に突如現れたのは、イケメン/恋煩いストーカー男子の「小千谷蘭」。花実の願望を無視してぐいぐい踏み込み、小千谷は猛アタックを仕掛けてくるのだがーー。

 

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粗い筋書きだけをみると、まるで少女漫画の基本スタイルのようだ。地味で目立たない少女に、イケメン男子がグイグイ踏み込んでくる。けれども違う。そういったアレとは、決定的に、違う。

 

まず、掲載誌はご存知「good!アフタヌーン」。漫画読みが最大公約数的に好む雑誌・アフタヌーンの姉妹誌。最近(少し前?)では『亜人』がヒットを飛ばしている。基本的にはややサブカル寄りの青年誌とみて良いと思われる。

 

そして作者である「厘のミキ」。彼女はこれまで、猟奇的、グロテスク、サイケデリックな印象を持つ作品を描いてきたことで知られている。

『落下傘ナース』という7年前の作品(全2巻)では、美少女が人体をさわやかに着こなしていたシーンが思い出深い。

『光』という、残念ながら途中で打ち切られた10年以上前の作品(全4巻)では、デスゲームに巻き込まれた高校生たちが徐々に狂気に包まれていく様を、読者への距離感ゼロでブチ込み、遠慮無用で、不気味に描き出していた(あまり他に類を見ない、ある種の面白さがあったが、僕はこれを読んで、しばらく気が滅入った)。

作中の道徳観をほぼゼロに近づけることで、人間の欲望や、人と人の関係性を極限的に露出させる妙手を持つ作家。グロとギャグを漸近させ、読者に引きつった笑顔をもたらす捻くれ者の作家。比較的マイナーな人だとは思うし、物語半ばで連載終了してしまった作品も数多いと聞く。けれども意外とキャリアはそこそこ長い(20年近い)、そんな漫画家だ。

 

そんな掲載誌と作者で、ふつうのラブコメが和やかに展開されるわけが無いし、実際そんなわけが無かった。本作もやはり我々が抱いている道徳観や常識はどこかに吹っ飛んでしまっている。ラブコメの"コメディ"という言葉で処理して良いのか怪しいくらいに。

たとえばヒロインですら、屋根から落ちてきた男の子を、家の敷地内で死んでしまったら不動産価値が落ちてしまうからと、敷地外にズラそうとするし(誰もツッコまない)、"友達"をナチュラルにお金で買おうとするし(誰もツッコまない)。相手役の小千谷蘭も、ストーキング相手の屋根の上で何日間も寝泊りするし(そこで毛布を貸してあげるヒロインが優しい)、風邪を引いたヒロインの尿検査を行うがために使用済み便器ににじり寄るし(さすがにヒロインは抵抗する)。

 

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とにかくキャラクターの行動や会話のアクが強いので、このあたりに抵抗があると、残念ながら素直に本作を楽しめないと思う。が、この世界観に慣れてしまえば、これら非常識の壁の向こう側にある、彼ら彼女らの極めて純粋な思いに我々読者は感動することになるだろう。

"コメディ"のベールで見えづらくなっているが、それを丁寧に払いのけて見通してみると、その実、キャラクターの行動原理はとても美しいことがわかる(個人的にはこの点、故・小路啓之氏の作風に近いものを感じている)。

 

なぜ、ヒロインは人嫌いになってしまっているのか。そもそも、本人が口にしている通り、本当に人嫌いなのか。この物語は、多くのボーイミーツガールを謳う作品がそうであるように、ラブストーリーであると同時に、互いが互いを補い、高め合う、成長譚でもある。そして本作が他作品には無い面白さがあると、僕が主張する理由はこの部分にある。

 

ヒロインである花実には、家族に関わる、とあるトラウマがある。言ってしまえば、そこまで珍しいエピソードでもないのだが、"彼女にとっては"大きな傷跡になってしまっている。彼女なりの強迫的なまでの純粋さのせいで、深くこのことに囚われてしまっているのだ。そしてこの物語において、彼女がトラウマから解放されるために必要な解答は、結局のところただ一つしかなかった。それが、この物語のヒーロー・小千谷蘭。変質者一歩手前の変人ストーカーである彼であった。そして彼で無ければならない必然性が、しっかりとした強度で作中で描かれている。

これ以上はネタバレに踏み込んでしまうので書かないが、この補完性が本当の意味で理解された瞬間、大きな感動が生まれるのだ。

 

2016年末現在、2巻まで刊行されているが、意外と物語(二人の関係性)が進展するスピードはそれなりに早く、飽きさせない。

個人的には、第2巻末の掲載話(第10話)が、漫画の演出として圧巻の完成度を誇っているため、是非注目頂きたい。具体的には、花実が進む方向(右・左)や、彼女が出会う人物たちが表す象徴、そして終盤に花実が語る二重の意味を持つ重い言葉、などを味わって欲しい(これらについては、改めて既読者向けの別稿で解説する)。

 

単行本収録話以降も、現在進行形で、物語の面白さはどんどん加速していっており、また新たな展開を迎えている。話の軸は全くブレておらず、恐らくは物語の結末も既に決定されているものと思われる。それはひとえに、作者の描きたい哲学が確立されているがためであろう。僕の今の予想としては4巻で完結になるのだろうと思っているが、是非、氏には最後まで描ききって欲しい。そして、本稿の読者の方々にも是非この作品を知って頂き、読んで頂きたい。

Webで第1話だけ試し読みできる(http://afternoon.moae.jp/lineup/569)ので、このアクの強さでも問題無ければ、ひとまず1巻の最後まで読んでみて欲しい。上記まで私がレビューを書いた理由がお分かり頂けることと思う。多分。

 

しかし、このような他に類を見ない面白い漫画を描いてくださる厘のミキ先生には本当に頭が上がらない。先生、本当にありがとうございます。心より感謝いたします。

 

ミザントロープな彼女(1) (アフタヌーンKC)

ミザントロープな彼女(1) (アフタヌーンKC)

 

 

 

ミザントロープな彼女(2) (アフタヌーンKC)

ミザントロープな彼女(2) (アフタヌーンKC)