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ねとねとねとはのねとねと日記

現実と想像とマンガ

『ラブラッシュ!』

ねとはは硬派な漫画読みとして知られているが、『ラブラッシュ!』は期待していた漫画だった。

今年、『ニセコイ』が二重の意味で終わったことは記憶に新しいが、今連載中のジャンプラブコメである『ゆらぎ荘の幽奈さん』と『ラブラッシュ!』からは「ニセコイ誅すべし」の精神を感じなくもない。さんざん、方々で言われていることだが、終盤のニセコイは、主人公である「楽」の振る舞いがあまりにも酷すぎる。鬼畜の所業と表現されても全くおかしくない。せっかくステレオタイプながらも魅力的なキャラクターを動かし、当たり障りの無いストーリーをこね回していたのに、物語終盤において、おそらくは当初想定していた着地点へと強引に持っていったために、主人公の動機付けに歪みが生じたのだ。元々、一見誠実な性格にみえる描写をされながらも、その実不誠実なクソ野郎であった主人公に抱いていたヘイトが、終盤にさらに加速してメーターをぶっちぎった格好だ。信じられない野郎だ。こういう人間が意図せず他者を不幸にし、そして本人はそのことに気づくことは無いのだ。良い子のみんなは、こんな奴のマネをしちゃいけないよ。

さて、ラブラッシュの主人公のレイジ君は、ニセコイの楽君とは違い、非常に一途であるようだね。なんでも、「男の中の男遺伝子」の持ち主で、女性からは「空前絶後の超イケメン」に錯覚されるという、特殊能力を持ち合わせているそうじゃないか。周りからはモテモテで、常にハーレム状態。全く、うらやましい限りじゃないか。それだというのに、聞けば幼馴染の女の子のシズクちゃんしか眼中に無いという。なんて純粋なんだろう。しかも、言い寄る女の子にははっきりと拒絶の意を示している。楽君は彼の爪の垢を煎じて飲まなければいけないよ。飲めよ。

つまりレイジ君は、ニセコイの某主人公と違い、誠実な人物として描かれているため、無駄にヘイトが溜まらないわけだが、『ラブラッシュ!』の魅力は別にそこにはない。ここまではプラマイゼロ(もちろんニセコイはマイナス100万点)。この作品の魅力はヒロインのシズクとの関係性にある。他のキャラクターはオマケというか、スパイスみたいなものだ。

 

まず、シズクは造形として、かわいい。OK? OK。

性格は、既存のステレオタイプに当てはめれば「クーデレ」あたりになるかもしれないが、ともかく、あまり感情に波が無いように描かれている。少なくとも外面的には。

作品世界のほとんどの女性は、レイジの容姿に惚れ、好きという感情を抱く。しかし幼馴染のシズクは、レイジの容姿には全く反応しない。好きという感情も表層には上っていない。が、どうやら、「好き」以上に、深い深い愛情が、彼女の心の深層に潜んでいるらしい。彼女の言葉からは「大事な大事な大事な幼馴染」とだけ表現される。

 

物語は、レイジがシズクに告白をし、そのことが刺激となり、彼女に潜んでいたらしい大きな愛情が、徐々に表層に現れ始める、というところから始まる(1〜2話)。

他のキャラクターは、ほとんどが天使・悪魔・獣人・スライムなどの異種族で、手を替え品を替え、様々な手段でレイジを手に入れようとする。18歳の誕生日を迎え、婚姻可能となったレイジを婿にするためだ。

異種族にとっては、キス=婚姻となる、という設定がある。心はそう簡単に奪えずとも、体は簡単に奪える、ということで、物語にスリルを与えるための機能として働いている。

愛情が表面に現れきっていないシズクは、レイジが奪われそうになる様を、表面的には冷静に眺めている。が、徐々に刺激され、自分の中の深い感情に気づいていく……。

というのが、大まかな構図だろうか。

 

恐らくは、この物語で表現したいことは、シズクとレイジとの間にある深い関係性で、それは単なる好きという感情を遥かに超えるものである、ということなのだろう。ひょっとしたら、ステレオタイプな少年誌ラブコメにしばしば描かれるような恋愛感情に対して挑戦するような作品を目指していたかもしれない。幼馴染というものに対する過度な幻想のような気もするが、そういう気持ちはよくわかる。そんな幻想が描かれた作品は、とても読みたい。それが物語というものだ。

この作品が続けば、当て馬である天使の女の子をはじめ、様々な異種族が、様々な価値観の元、様々な「好き」の表現・主張を行い、レイジがそのことに反駁したり動揺したりし、その傍らでシズクに眠っていた深い愛情が姿を現わし、最終的には、二人の間の、強い結びつきが描かれる、というストーリーとなったことだろう。

かなりマニアックな異種族も設定されていたようなので、物語のスパイスとして、それはそれで楽しんで見ることができただろう。

 

ところが。

『ラブラッシュ!』は今まさに、打ち切られようとしている。上記、めちゃめちゃ過去形で書いてしまったが、それくらいもうヤバイ

今週で10話だが、磯兵衛を除けば、掲載順位は一番後ろだ。しかも、誰がどう見てもテコ入れの水着回、加えて物語の急展開。

改編期はもう少し先だとは思うが……恐らく、まだ打ち切りは決定していないながらも打ち切り候補筆頭で、「もう後が無い状態」だろうということは容易に察せられる。いや、ひょっとしたらもう決まっているかもしれない。それくらいの急展開だった、今週は。

 

敗因は何か。まず対抗馬として『ゆらぎ荘の幽奈さん』がいるのがデカい。掲載順位を見るに、どうやら相当な人気のようだ。ねとはも気に入っている。アレはアレで良い作品だ。ただ、ゆらぎ荘はかなりお色気の要素を重視しているため、食い合わないようにラブラッシュはそのあたりを避けている節がある。テーマも、上述のように、ハーレムものへの皮肉と取れる部分もあるし、実のところは違う層に向けて書かれた作品なのではなかろうか。しかし……やはり一見、両者、ジャンプラブコメ枠のくくりになってしまうのだろう。アンケートで書けるのは3作品。厳しかったか。

当て馬のキャラクターの魅力が乏しいのも、ちょっとキツい。正直、メイン当て馬に据えられている天使の女の子の空回りっぷりは、難しいものがある。なんせ、やることと言うことに、回を重ねてもあまり変化が見られないのだ。お前、それしかないのかよ、と言いたくなる。この点は反省の余地がありそうだ。また、物語の設定上、主人公に対する「好き」の動機付けは「遺伝子」で簡単に片付けられてしまうきらいがある。描写をみるに、恐らく、天使の女の子と主人公の間には、何らかの過去の出来事がありそうだが、この点を出し惜しみせず、早いうちに活用するべきだったかもしれない(ジャンプはある意味、長い短距離走を強いられるのだ)。

ラッシュという言葉がタイトルにも入っている通り、次々と(異種族)女性キャラが投入されていくのだが、相当巧くやらないとさばき切るのが難しいのかもしれない。作者はまだ2作目で、1作目も11週で打ち切りを食らっている。1作目よりも画力はかなり上がっていると思うが、こういう点での技術は、まだ追いついていなかったのかもしれない。例えば、要所要所でギャグにキレがあるとか、何らかのミステリ的要素を組み込むとか、そういった巧さが足りていなかったのかもしれない。

得てして読者が見たいもの。それは登場人物の「変化」だ。この物語の一番の見せ所は、恐らく、シズクの心情の変化だろう。ところどころ、この点の見せ場は見受けられるし、僕もそれを楽しみに読んできていた。しかし、この見せ場が、ちょっと足りなかったか……あるいはタイミングが少し遅かったか……どうだろう。

 

反省点は色々とありそうなのは確かだ。しかし、僕はこの漫画から、既存のジャンプラブコメが描いていなかったところを描いてやろうという気概を感じたし、その魅力の萌芽も見て取れた。この作品からしか生まれなかったものが、きっとあったんじゃないかと思う。幼馴染の幻想を存分に描き切って欲しかった。

 

半分諦めの境地で、過去の作品扱いの表現もしてしまったが、10月24日現在、本作品はまだ終わっていない。最後まで応援したいと思う。