銀色
凍りつくということは、あらゆる客体が受動性を受け入れるということ。
溶けていればきっと、川辺に佇む彼女の黒い髪は風になびき、スカートは揺れる。ほどよい冷気が頬を紅く染め上げ、気付かないくらいに身を縮こませる。僕の集中は彼女と彼女をとりまく世界が織り成す無数のパターンに注がれ、生命の発露に根ざした情感が立ち上がったことだろう。
凍結している今、髪はなびかないし、スカートは揺れない。風は吹かない。ねっとりとした空気は、快も不快も遠くに追いやる。
彼女の眼差しは流れる川に向けられている。今や数少ないパターンとなったその様相に、僕は夢中になる。銀色に輝く彼女の瞳は、文字通り、この世のものではない。
銀色の川は時間を貫く。
凍結と解凍を繰り返すこの町で時の存在を教えてくれる、唯一のものだ。僕と彼女の身体を除けば。
だから僕らは川沿いの道を歩くことが、好きだった。